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サイトにUPした小説の後書きとか、拍手返信、時折すごく短い小説とかを書いたりします。 あとは没になったネタとかも書いてみたり。
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カイトの小説を書いたものの、あまりにも短すぎるのでこっちにUPです。
ちなみに微妙にシリアスです。
最近、小説を書くのが楽しすぎます。楽しい。超楽しい。



叶うことのない夢


 マスターが、笑う。俺もつられて笑った。
 空はすっかり雲に覆われていて、ちらほらと雪の結晶達が舞い降りてくる。マスターが吐く白い息を見ながら、俺はマフラーを外し、彼女の首に巻いた。驚いたような表情を浮かべられる。
 それに小さく笑みをこぼしながら、俺は口を開いた。


「寒いですよね」


 マスターはそんなこと、と言う。嘘だと瞬時に悟った。彼女の震える体がそれを如実に表している。
 彼女は、俺が巻いたマフラーを取り、小さくカイトの方が風邪ひいちゃうよ、と言った。
 そんなことはありえない。俺はボーカロイドだ。風邪なんてひかない。俺にマフラーを返そうとする彼女の手を、取った。ひんやりとした冷たさが手に伝わる。


「手が、冷たいじゃないですか」


 そう言うと、小さく苦笑を零される。俺は彼女の肩に手を回し、自分に引き寄せるようにして抱きしめた。小さく息を呑む音がする。


「ほら、震えている」


 マスターの耳は真赤で、触るととても冷たかった。ふう、とため息をつくような音がしたかと思うと、マスターの声が聞こえた。
 ──じゃあ、帰ろうか。
 俺が抱きしめているからか、声はくぐもっていた。抱きしめる力を緩め、俺はマスターを見る。視線が交わった。マスターが気恥ずかしそうに笑う。そうして、俺の服にもう一度顔をうずめ、もう寒いしね、と呟くように言った。その仕草が、その声が、どうしようもなく可愛く思える俺は、おかしいのかもしれない。


「マスター、好きです……」


 掠れた声で呟くと、マスターが驚いたように身をびくりと震わせた。カイト、と俺の名前を小さく呼ぶ声。
 俺は、触れている。マスターに、触れることができている。

 肩に顔を沈め、マスター、マスター、と何度も言う。くぐもった声は、きっとマスターにとって聞き取りにくいだろうけれど、そんなこと、気に留める余裕がない。


「好きです、マスター、好きです」


 ぎゅっとますます力強くマスターを抱きしめる。すると、マスターは俺の胸をそっと押し、かすかに笑った後、──霧散した。





「────!」




 飛び起きる。息が荒い。喘ぐように呼吸をする。胸に手を当て、服を強く握った。しわの跡が残る、ということは頭に無かった。

 又だ。又、また。

 俺は布団から出て、部屋──フォルダの外へと出た。扉を静かに閉め、そこに体を預ける。
 目の前に広がるのは、デスクトップだ。マスターのパソコンの、デスクトップ。俺は、ボーカロイド。……アプリケーションソフトウェアだ。実体は、無い。

 小さく息を吐く。あの夢を見始めてから、いったいどれくらい経つのだろう。俺は、ボーカロイドは夢なんて見ない。それなのに、あんな風な夢を見ることが、最近多い。

 夢の中だと、俺は実体をもつボーカロイドだ。マスターの、……恋人のように俺は居る。マスターに甘い言葉を囁き、時折、唇を合わせる。今の俺にはない暖かさが、夢の中の俺にはある。
 とても綺麗で、優しい夢だ。けれど、最後は絶対にマスターが霧散して終わってしまう。

 俺にはマスターを殺したいという願望は無い。けれど、絶対にマスターは消えてしまう。俺の目の前で、忽然と。
 幸せはすぐに終わる。俺は飛び起きる。夢、起きる、夢、起きる、夢、起きる。そんなことが何度も続くと、流石に気が滅入る。

 扉から離れ、俺はデスクトップ上へと向かった。ある場所に立ち、手を伸ばす。指先に何かが触れたと思うと同時に、何かぴりっとした刺激が走る。それに臆せず、足を一歩進める。見えない衝撃が、俺を襲った。尻持ちをつく。

 ──目の前にあるのは、俺とマスターを阻む壁だ。透明な壁。画面だ。
 マスターはパソコンの中には居ない。俺は、パソコンの中にいる。相容れない存在、と言ったらかっこいいかもしれない。

 僅かに頭を俯かせる。知っている。……知っていた。俺はここから出られない。実体がない。マスターに触れられない。言葉も、マスターには届かない。マスターの声は、俺たちに聞こえるのに、マスターの声が聞こえないのは理不尽だ、と遺憾を覚える。
 俺の声は、マスターが何かを歌わせたり喋らせたりする時にだけしか、マスターに聞こえない。

 ──あの、夢のようにはいかないのだ。


「マスター」


 情けない声だ。
 マスター、貴方に触れたいのに。話したいのに。抱きしめて、そこに居ると実感したいのに。

 かなうことのない夢を見続けるのは、果たして幸せなのだろうか。

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